第6回目となる「萩のまちと文学」シリーズ。
今回は、山口市生まれの詩人、中原中也をとりあげます。
「萩のまちと文学」なのに、山口市?と思われるかもしれませんが、
実は、萩市にもゆかりがあるのです。
中也は、21歳から24歳までの期間を萩で過ごしました。
中也の母フクは、中也の弟2人を萩中学に転校させ、
3年近くを河添56番地の楢崎頼三邸を借り受けて住みました。
東京で活動していた中也も、帰省して萩で暮らしていたのです。
その間の事情は、岩国出身の友人
河上徹太郎に宛てた手紙で知ることができます。
「蜜柑畑に沿った、高さ三尺許りの生垣にめぐらされた、
チャンバラの背景には好適の家にいて、
間近い山が見える許りです。
井戸端に行って水を飲む、するとポンプの管が竹だもんだから、
竹の匂がプンとします。
家の裏を出て五間もゆくと、そこが河です。」
(『中原中也全集 第4巻』河上徹太郎宛書簡)
また、萩の海に触発されたとされる作品もあります。
「夏の海」
耀く浪の美しさ
空は静かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の昼。
心の喘ぎしづめとや
浪はやさしく打寄する、
古き悲しみ洗えとや
浪は金色、打寄する。
そは和やかに穏やかに
昔に聴きし声なるか、
あまりに近く響くなる
この物云わぬ風景は、
見守りつつは死にゆきし
父の眼とおもはるる
忘れゐたりしその眼
今しは見出で、なつかしき。
耀く浪の美しさ
空は静かに慈しむ、
耀く浪の美しさ。
人なき海の夏の昼。
(『新編中原中也全集 第2巻 詩Ⅱ 本文篇』)
参考図書
『中原中也全集 第4巻 日記・書簡』大岡昇平/編 角川書店/発行 ※当館所蔵あり
『新編中原中也全集 第2巻 詩Ⅱ 本文篇』大岡昇平/編 角川書店/発行 ※当館所蔵あり
『新編中原中也全集 第2巻 詩Ⅱ 解題篇』大岡昇平/編 角川書店/発行 ※当館所蔵あり
『作家たちの文章で綴る 萩のまち文学散歩』萩図書館「文学散歩」制作委員会/編
萩まちじゅう博物館出版委員会/発行 ※当館所蔵あり カウンターにて販売中