2021年12月2日木曜日

萩のまちと文学 ④ 宗田理(そうだおさむ)

 宗田理は東京都出身の小説家です。1979年、直木賞候補となった『未知海域』で作家としてデビュー。1985年刊の『ぼくらの七日間戦争』をはじめ“ぼくらのシリーズ”は、今でも根強い人気を保っています。

 著書の一つ『ほたるの星』は、山口県の防府市立花浦小学校の瀧口稔先生のほたる飼育の記録を参考に書かれており、映画も制作されています。

 本書の中には、吉田松陰を尊敬し、現代の松下村塾を作ろうとする西村という人物が出てきます。

 「いま、教育は学校だけではできん。じゃけえ塾を作るんじゃ。そこで親と子に本物の勉強を教えちゃる。これがわしの夢じゃ。松陰先生はこう言っておられる。人賢愚ありといえども おのおの一二の才能なきはなし そう合して大成する時は必ず全備する所あらん。これは明倫小学校では三年生の朗唱文だ」(略)

「人にはそれぞれ能力に違いはあるけれど、だれも一つや二つの長所は持っているものである。その長所を伸ばせば、必ず立派な人になれるであろうという意味じゃ」

 このほかにも、西村が吉田松陰の言葉や姿勢を話す場面がいくつかあります。

 宗田理は子供たちのやりたいことへの意欲の低下を危惧し、机上の教育だけでなく、実際に自然を通して道徳を身に着けることの大切さを訴えています。そこで、座学だけでなく、畑仕事などもしながら教育を行い、新しい時代を開いた人々を育てた吉田松陰を書くために、西村を登場させたようにも思われます。

 吉田松陰だけでなく、作中ではホタルを育てたことのある先生に会うために、主人公たちが萩の観光をする場面があります。

 「ここは町ぐるみ、近世城下町の風情が今も色濃く残っていて、町並みは碁盤の目のようになっています。今は知っている道は東西に通じる昔の御成道で、この道から南に三本の路地があります。東から江戸屋横丁、伊勢屋横丁、菊屋横丁で、この三本の路地に囲まれた部分が萩城城下町として、国の指定になっています。」

 城下町以外にも、松陰神社や涙松、松陰読本のことも描かれています。

自然との触れ合いの大切さ、自然環境の見直しの必要など現代の社会に必要なことが描かれており、子供から大人まで読んでいただきたい本です。

本だけでなく、DVDも貸出が出来ますので、ぜひ手に取ってみてください。

 

参考図書

 ・『ほたるの星』宗田理/著 角川書店/発行 当館所蔵有

 ・『作家たちの文章で綴る 萩のまち 文学散歩』 萩図書館「文学散歩」制作委員会/編集

  萩まちじゅう博物館出版委員会/発行  カウンターで販売中