2022年6月10日金曜日

萩のまちと文学⑩ 野口雨情

 

萩市笠山の東麓、厳島神社の前に、国の天然記念物にも指定されている明神池があります。

外海とつながり、海水魚の泳ぐ天然の水族館とも言われる海跡湖。

その明神池のほとりに、「萩小唄」の最後の一節が刻まれた歌碑があります。

 


 シリーズ「萩のまちと文学」第10回目は、こちらの風光明媚な明神池の景色と共にお届けしたいと思います。


 

昭和1052

萩を訪れ、この明神池の風景を

唄に詠み込んだ詩人がいました。

日本三大童謡詩人として知られる、野口雨情です。

 

野口雨情は、大正から明治にかけて活躍した詩人、童謡・民謡作詞家です。

明治15年茨城県で生まれ、新聞記者などを経て詩作活動をし

「七つの子」「シャボン玉」など数多くの名作をうみ出しました。

昭和初期、数年間にかけて日本各地を巡り

その土地ならではの風物を詠んだ民謡を作詞しました。

“民謡は、国民性が現わされた国民詩”という思いを持ち

民謡普及活動へ情熱を傾け、多くの地方民謡を各地に残しています。

その一つが、私たちの町、萩で作詞された『萩小唄』でした。

 

萩小唄は、防長新聞、昭和1055日付のものに

掲載時『萩民謡』と題され掲載されました。

 

『 萩 民 謡 <萩 小 唄> 』

 

松下村塾昔のまゝに 今も松風絶えやせぬ。

匂ひゆかしく香もなかしく 色も黄金の夏蜜柑。

波は渚に螢は草に 月は指月の蔭に入る。

さすが長州は女でさへも 臺塲築いて國のため。

砂は白砂松靑々と 波も靜かな菊ヶ濱。

泣いて見かへり別れを惜む 涙松ではないけれど。

春は櫻の川島堤 うすらおぼろの夜かつゝく。

萩の大橋流しちやらぬ 流しやたよりが遠くなる。

同じ流れの阿武川さへも 未だ別れて海に入る。

萩の笠山明神池は 汐のみちひもまゝならぬ。

               萩市の史蹟名勝天然記念物』より

 

 野口雨情が訪れた当時の様子を、長州新聞ではこのように伝えています。

「民謡作家の野口雨情さんは、二日午後二時過、憧れの地萩に来り、史蹟勝地を尋ねて、四日大津郡地方へ向かつた―(以下略)

 

87年前、野口雨情の萩探訪。

古き萩の人たちの面影を感じながら、彼の目に映った美しい萩の情景。

叙情豊かな萩小唄を辿りながら

あなたも同じ景色を文学散歩してみてはいかがでしょうか。

 

 

*****参考図書*****

 

『萩市の史蹟名勝天然記念物』 金子久一/著 

 ※当館所蔵あり

『作家たちの文章で綴る 萩のまち文学散歩』 萩図書館「文学散歩」制作委員会/

 ※当館所蔵あり カウンターにて発売中

『野口雨情 詩と民謡の旅』 東 道人/著 踏青社

※当館所蔵なし(山口県立図書館所蔵あり)