萩市笠山の東麓、厳島神社の前に、国の天然記念物にも指定されている明神池があります。
外海とつながり、海水魚の泳ぐ天然の水族館とも言われる海跡湖。
その明神池のほとりに、「萩小唄」の最後の一節が刻まれた歌碑があります。
萩を訪れ、この明神池の風景を
唄に詠み込んだ詩人がいました。
日本三大童謡詩人として知られる、野口雨情です。
野口雨情は、大正から明治にかけて活躍した詩人、童謡・民謡作詞家です。
明治15年茨城県で生まれ、新聞記者などを経て詩作活動をし
「七つの子」「シャボン玉」など数多くの名作をうみ出しました。
昭和初期、数年間にかけて日本各地を巡り
その土地ならではの風物を詠んだ民謡を作詞しました。
“民謡は、国民性が現わされた国民詩”という思いを持ち
民謡普及活動へ情熱を傾け、多くの地方民謡を各地に残しています。
その一つが、私たちの町、萩で作詞された『萩小唄』でした。
萩小唄は、防長新聞、昭和10年5月5日付のものに
掲載時『萩民謡』と題され掲載されました。
『 萩 民 謡 <萩 小 唄> 』
松下村塾昔のまゝに 今も松風絶えやせぬ。
匂ひゆかしく香もなかしく 色も黄金の夏蜜柑。
波は渚に螢は草に 月は指月の蔭に入る。
さすが長州は女でさへも 臺塲築いて國のため。
砂は白砂松靑々と 波も靜かな菊ヶ濱。
泣いて見かへり別れを惜む 涙松ではないけれど。
春は櫻の川島堤 うすらおぼろの夜かつゝく。
萩の大橋流しちやらぬ 流しやたよりが遠くなる。
同じ流れの阿武川さへも 未だ別れて海に入る。
萩の笠山明神池は 汐のみちひもまゝならぬ。
『萩市の史蹟名勝天然記念物』より
野口雨情が訪れた当時の様子を、長州新聞ではこのように伝えています。
「民謡作家の野口雨情さんは、二日午後二時過、憧れの地萩に来り、史蹟勝地を尋ねて、四日大津郡地方へ向かつた―(以下略)」
87年前、野口雨情の萩探訪。
古き萩の人たちの面影を感じながら、彼の目に映った美しい萩の情景。
叙情豊かな萩小唄を辿りながら
あなたも同じ景色を文学散歩してみてはいかがでしょうか。
*****参考図書*****
『萩市の史蹟名勝天然記念物』 金子久一/著
※当館所蔵あり
『作家たちの文章で綴る 萩のまち文学散歩』 萩図書館「文学散歩」制作委員会/編
※当館所蔵あり カウンターにて発売中
『野口雨情 詩と民謡の旅』 東 道人/著 踏青社
※当館所蔵なし(山口県立図書館所蔵あり)