着物ウィークからはじまる萩の10月。
萩市の地名は、近くにハギがたくさん生い茂った山があったことに由来しているとも言われています。(萩市HP参照)
秋の七草にも数えられる萩の名前のこのまちは、秋の深まりとともにいっそう趣深く感じられます。
シリーズ「萩のまちと文学」第14回目。
今回ご紹介する立原正秋は、日本の美を愛した作家です。
1926(大正15)年に、韓国で生まれました。
1965(昭和40)年に『白い罌粟』で直木賞を受賞していますが、純文学も、大衆文学も残していて、中世古典文学の深い造詣に裏付けられた美意識は、多くの人々の心に響き、影響を与えています。
立原正秋は、萩への旅行記も残しています。
「萩は城下町としてもっとも原形をとどめている町ではないかと思う。この町の土塀や石垣塀の美しさはそのまま絵になるかたちであった。ながい土塀に沿って歩きながら、人に行きあわなかったときがあった。風がたち波がさわぎ、昼の道にうすい陽がさしており、このとき私の裡ではしばらく時間がとまっていたらしかった。問田益田旧宅のながい土塀に沿って歩いていたときである。私の考えによれば、土塀はかなり優美な世界である。建築家は土塀の構成美をあげるだろうが、土塀はやはり風土とそこに棲む人間の精神とが調和したものだろう。土塀には均衡が保たれている。私の裡で時間がとまったのはそのせいだった。」
秋桜の咲く道を通り、立原正秋も訪れた問田益田氏旧宅の土塀を訪れると、しみじみと時間の流れの不思議さを感じました。
爽やかな秋晴れ。まっすぐに長く続く白壁を横に、秋風に吹かれながら歩を進めると、ふと、風と風の合間に、現在と、あの時代、そして未来を見るような心地がしました。
菊ヶ浜から聞こえてくる波の音に、全身を包まれながら、心は静かになっていきました。
あなたも、作家たちが描いた、萩のまちの美しさ、秋の風情を
探しに行きませんか。
🍊*参考図書*🍊
『萩へ津和野へ』 立原 正秋/著 ※当館所蔵あり。
『作家たちの萩 下巻』 高木 正熙/著 ※当館所蔵あり。
『作家たちの文章で綴る 萩のまち文学散歩』萩図書館「文学散歩」制作委員会/編
※当館所蔵あり カウンターにて発売中