2021年11月13日土曜日

萩のまちと文学 ③ 吉屋信子(よしやのぶこ)

 吉屋信子は新潟県出身の小説家です。キリスト教的な理想主義や清純な感傷性によって多くの女性時の支持を得て、女流文学賞を受賞した『鬼火』や晩年の歴史小説『徳川の夫人たち』などの数多くの作品を残しました😀

 萩の地は吉屋信子にとって、両親や先祖代々の生まれ育った地です。随筆『私の見た美人たち』に萩について述べた作品「祖先は祖先、私は私」があり、この作品から分かる吉屋信子と萩について紹介します。

萩の人は両親を含めて自身の郷里を誇りに思い自慢する人だと述べています。

「ものごころついた頃から私の耳にたこの出来るほど、吉田松陰、伊藤博文、山形有朋、そして木戸孝允、それからなんとか、なんとか、えらい人たちが出身した土地だときかされた。それを聞く度に、そんなにえらい人たちの輩出した同じ土地に生れて育ったくせに、どうして父はもっと立身出世した官吏にならないのだろうと私はひそかに懐疑に陥った。

また、母は母で、父の赴任地が、この郷里を去ること遠い北陸や関東地方を転任していたので、郷里の食味を恋することたいへんで、萩という町がいかに豊富なお魚に恵まれ、川魚には鮎もあり、果ものには新鮮なくねんぼ、夏みかん、だいだい、そういうものが自分の実家の裏庭にたわわになった話をする。」

吉屋信子の両親にとって、萩から遠く離れた地に住んでいても、萩は自慢したい素晴らしい地であることが分かります。また、吉屋信子自身、萩は住んだことがない土地ですが、両親の影響で萩への愛着が強くあったようです。

吉屋信子は父親のお墓がある萩の蓮池院を訪れた際、やはり萩は良い場所だったと述べています。この題名でもあるように「祖先は祖先、私は私」と割り切って考えていても、自身の体感で萩の良さを述べているところが吉屋信子の生き方を表しているように思えます。

萩図書館にも夏みかん🍊が植えてあります。

この本は、萩のこと以外に近代史を彩り、ジャーナリズムを賑わした日本の女性の姿が生き生きと描かれています。是非、ご覧ください📗


参考図書

・『私の見た美人たち』吉屋信子/著 読売新聞社/発行 当館所蔵有。

・『作家たちの文章で綴る 萩のまち 文学散歩』 萩図書館「文学散歩」制作委員会/編集

  萩まちじゅう博物館出版委員会/発行  カウンターで販売中。